漫画を描いている側は少しでも絵が上手くなりたい、と思う。
で、人体解剖図を見たりデッサンなんかで腕を磨こうと努力する。 しかしリアルになると今度は絵が硬くなって身体の動きや表情が乏しくなってきて漫画としての魅力がなくなってくる。(漫画的に絵になるプロポーションは実際の人間とは違う) でも今は地道にデッサン力をつけるんじゃなくて、手っ取り早く写真や3Dモデルからトレースしてキャラクターを起こしてしまうそうだが。(「キン肉マンⅡ世」の決めポーズもそうして作っていると知って驚きました。) でも地道に力をつけたほうが臨機応変、どんな角度、ポーズも描けて描くのが速いと思うんだけどナ。 こういう考え自体もう古いのかな?(古い=間違っているとは思わないけど) トレース素材がないと描けないってのはどうなのか?と思うけど、別に絵の試験を受ける訳じゃないし。 作品の完成度が上がればそれでいいわけだけど、自分はそんな漫画を描いていても面白くない。 編集者は常に新しい絵を求める。 インパクトのあるキャッチーな絵柄ならそれだけで読者が手に取って読んでくれるから当然そういう絵柄は商品価値がある。 そして漫画家は新しい絵柄、リアルな絵に近づこうと努力する。 雑誌に載る漫画は当然似た感じの絵ばかりになる。(それ以外は商品として認めないのか、そういう描き手しか集まってこないのか。) ーーーしかし。 絵を描いていると段々次のように思えてくる時がある。 時間をかけて背景を描いてあっても読者はそのコマ、1秒も見ていないんでは? いや、実はキャラクターの顔しか見てないんじゃない? だからカッコいいイケメンキャラに萌え少女ばかりになってしまったんでは? いやいや、顔の中でも特に「目」しか見てないのかもしれないぞ? 目は口ほどに物を言うというくらい感情を表現する部位だし・・・ ある編集者も目と口に注目すると言ってたぞ。 いや、読者にとって魅力的なキャラクターなら絵のデッサンだって実はどうでもいいんじゃないの? 漫画の絵の実力って何なの? 本当に今風の絵柄が商品として全てなの? ーーー雑誌に載るには編集者に使ってもらえない限り無理だ。 そして漫画家は使ってもらうために商品価値のある絵柄を目指す。 ネーム力よりも見た目のほうが判断しやすいからだ。 新人の漫画賞も絵が上手いと総合力で1ランク上がって受賞するだろう。 こうして創り手(編集者、漫画家)は「上手い絵、今風の絵でないと通用しない」と思い込む。 しかしである。 家の息子二人は今まで自分で漫画雑誌を買ったことがない。 理由を聞くと「萌え絵とか今風の絵柄って見るだけで『つまんなそう。』と思うから買ってまで読みたくない。」 実際何度もそういう目にあっている、と言う。 それでラーメン屋にあった漫画雑誌の中でもその手の漫画は全て飛ばし読み、野中英次を読んでいた・・・・・・ 家の子はいわゆるオタクではないので、そういう答えになるのかもしれないが。 そのくせ家にある古い漫画本を読んでは笑ったり、繰り返し読んでいたりする。 それは面白いから繰り返し読むのだろう。 絵が新しい、古いという価値観はそこにはない。 面白いから読む、つまらないから読まない、それだけだ。 漫画が売れない、と言われて久しいが、創り手と読者の間に何かズレがあるのでは?という気がしてならない。 そして普通の漫画読者の言葉にハッとした。 「私は漫画を読んでいるから。」 そう、漫画はアニメと違って「見る」だけではなく「読む」ものなのだ。 コマ割りされた絵と文字を自分のリズムで「読んで」いくのだ。 「見る」と「読む」が合わさった娯楽、それが漫画なんだ。 だからどちらか片方が蔑ろにされていい訳ではない。 今はあまりに「見る」だけが重視されていないだろうか? 故にワタシの考え(絵柄だけ今風ならいいのか?)は間違っていないんだ。 ネーム力を鍛えつつ、絵の技術も磨いていく、の方向でいいんだと。 目指すべきは「読んで面白かったと思える漫画」。 ーーーそんなことをつらつらと考えていた今日この頃でした。
by mieru1
| 2009-03-10 22:01
| 漫画を描くこと
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Comments(5)
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しのぶ
at 2009-03-11 00:09
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僕は、学生時代にデッサンをもっと勉強しておけばよかったと
思うことがよくあります。 漫画の絵を見て漫画の絵を描こうとすると、どうしてもつまずいてしまいそうで、僕はやっぱり基本的なデッサン力をつけた上で、「そこからヤッパリでてくる自分の絵柄」というのが僕の漫画の絵というふうにしたいと思っています。 しかしなかなかやっぱりデッサン力のなさに度々ガックシしてます。 そういう時は、 僕はよくA.ルーミスのやさしい人物画をひらきます。 あの本はいいですね。 漫画描く人みんなに持っていてもらいたい気分にさせてくれる1冊です。 ブログに時々出てくるみえるさんの絵を見て 上手やなーっていつも思ってます。 僕は課題が満載ですわ! がんばりまーす。
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mieru1 at 2009-03-11 14:50
>しのぶさん
ワタシの場合、赤塚不二夫などの平面的、記号的絵が身に染み付いているので立体で物を見る目を作るのにエラい苦労しました。80年代前半はそれで通用してたんですが・・・・ そういう苦労をしてきたので、やはり漫画とは言っても他の漫画家のコピーだけじゃ描く力に限界があるし、基礎的な絵の練習もしたほうがいいな、と思っています。 とにかく流行の絵は廃れた時が最後、地力がある人ならいいですが、そうでないと中々そこから抜け出せないでしょうし。(ワタシのように) ルーミスの本は文章もいいですよね。ただ、ああいう専門書は本人が問題意識を持って取り組まないとその良さがわかってもらえなさそうです。(ルーミス反対、というコメントも見かけるので)
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mieru1 at 2009-03-11 14:53
>続きです
しのぶさんの絵は誰から影響受けているのかわからなかったのですが、そういう考えで取り組んでいたんですね。 ワタシより下の世代だとほとんどがアニメから漫画家へ、というパターンなのでアニメっぽくないし、かといってよくある青年誌の絵とは違うし、でも骨太な本格派と思っていました。 漫画好きの自分としては、漫画は漫画絵の長所で勝負しなくちゃいけないだろうと思うので、丁度リアル路線と漫画らしさの真ん中辺りの絶妙なバランス上(おいしい場所)にある気がします。 基礎力を磨いて自分の絵を、というのもよ〜〜くわかります! タンタンやディズニーの絵も力がある人じゃなきゃ描けないものですよね。本格派嗜好です。 ワタシの絵を褒めてくださり、恐縮です。め、滅相もないというか・・・。(汗) そちらこそ「これ以上上手くなってどうするの?」と思うくらいですが、自分の理想と他人が感じていることにはそれ位大きな差があるっていうことでしょうね。 お互い理想を目指して頑張りましょう!
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kadoorie-ave at 2009-03-20 15:06
そういえば、一応漫研出身ながら、ここ何年も新しい漫画読んでないような...。漫研のOB会でも、一部の人を除いて「あんまり漫画読んでないな、そういえば」という人が何人もいてびっくりでした。
で、昔のはおもしろくて引っぱり出して読んでいたりします。人物が、描いた人それぞれ味わいがあって、中に入り込めたのが好きだった理由かも。テンポもゆっくりめだったし。 ところで、アナログなイラストを古風なやり方で描く私ですが、最近時々編集者から言われるのは「ああ、よかったです。最近、絵の書けるイラストレータ—がいなくって。みんな自分のキャラクター(パターン)か、得意のモチーフしか描かないんで」っていうこと。 写真撮って、デジタルで処理してイラストに仕上げる人も多いそうなので、まあ、私のようなのも色々あるやり方や個性の一つとして必要とされるかも...」と思いました。鉛筆に水彩というのも新鮮だと言われるし。
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mieru1 at 2009-03-21 02:57
> kadoorie-aveさん
多摩美の漫研OBでも漫画が読まれていないんですねぇ・・・ だいぶ前から同業者でも熱心に読んでいる人を聞きません。 大抵の人が「何をしているのかわからない。」「面白くない。」と言っていました。 それでただ単に「年をとったせいかな?」と思っていたけど、オタク相手の漫画ばかりになったのが原因なんじゃないかと思うようになりました。 >>最近時々編集者から言われるのは「ああ、よかったです。最近、絵の書けるイラストレータ—がいなくって。みんな自分のキャラクター(パターン)か、得意のモチーフしか描かないんで」っていうこと。 このエントリーを描いた後、身近にあるイラストを見るとあれもこれももしかしてトレース?もしくはフォトショで加工?って疑惑が。 先日の萌え絵の描き方もそうですが、デジタルになって絵を描くこと自体が歪んでしまっている気がしました。 根本的な画力は機械が補うからそれでいいのか?と・・・・ そういう人が増えて行くなら逆に手書きとか古くさいことが個性となって武器になっていく気がします。だからワタシも垢抜けない絵を売りにしていこうかと(笑)。
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