最近の携帯漫画やその他の漫画の求人でよくあるのが
「プロ・アマ問いません。絵柄を見て決めさせてもらいます。」というものです。 これって漫画という仕事をバカにしているのでしょうか? こういう依頼をしてくる所は大抵漫画に対して素人なのですが、漫画って絵さえ描ければ成り立つと思っている? 確かに絵は第一印象として最優先されるでしょう。 絵を見てお客さんが手に取って読みたくなる漫画、というのはわかります。 内容は読む「努力」をしないとわからないからです。 でも読んでみて面白かった、満足した、といえる漫画がどのくらいあるのでしょうか? ワタシのような古いタイプの漫画家からすると「漫画は絵とストーリーがあってこそ初めて評価できる。」と思っているのですが、今の編集者は絵柄で評価を決めてしまうようです。 コンペで絵の見本を出せ、と言われたら自分の場合、大抵不採用になるんじゃないか、と思います。 以前ある漫画賞を獲った時、その雑誌のレビューサイトで「こんな絵柄だとさぞ内容も陳腐でつまらないのだろう。」と絵の印象だけで全てを評価しているのを見て驚きました。 その漫画を読んだ訳でもないのにここまで言い切れることに、見た目の重要さと恐ろしさを感じたもんです。 でも絵柄は生ものと一緒で時代時代で流行が移り変わり、今風だった絵はすぐに「古くさい」に変化していきます。 そんな中、変化しないもの、揺るがないもの。 それがストーリー作り、ネーム作りだと思っています。 面白い漫画を描ける、それが作品を描くにあたって大切なことじゃないか、と思うのです。 読者に読んで喜んでもらうことが描き手としては何よりの喜びだと思うからです。 なので自分では絵よりもネーム作りの方に自信があります。 そんな求人募集の中で採用してくださり、何回もお仕事をいただく版元さんがあるのですが この仕事は資料をいただいて、そのテーマにそって漫画の構成からキャラ作りまでまかされています。 打ち合わせの時に「何故何度も使ってくれるんですか?」と聞いたことがあります。 「アマで女の子などのキャラの絵が可愛かったので頼んでみたのですが、他の絵が描けなかったり漫画として面白くなかったり、満足出来る作品じゃなかったことが続いたんですよ。」とおっしゃっていました。 そりゃそうです。プロとして修練してないんですから。 どうやらその繰り返しで固定の漫画家に頼むようになったようです。 漫画業界に携わっていない人達には漫画雑誌に載っている漫画は全て漫画家一人が作品をゼロから作り上げている、と思い込んでいるんじゃないかと思われます。 独りよがりになりがちなストーリーを指導したり、「こういうテーマで漫画を作っていきましょうよ。」と編集者が漫画家を先導していない場合は皆無ではないか、と思います。 で、件の求人のパターンでは、「原作さえあてがえば漫画として成り立つ。」くらいにしか思ってないのでは? それって楽譜が読めても演奏者の腕によってはいい曲にならない、というのと同じだと思うんですよ。 ワタシは漫画家として生き残っていくにはとにかくネーム作りを磨く事を第一に、そして画力のアップを心がけています。 漫画は絵だけでなく、その見た目とストーリーが合わさって成り立つ娯楽。 片方だけでは漫画ではありません。 でも現実は「絵柄」最優先なんですよね。 いい漫画を描くのに「絵柄が古いから。」ということで仕事がなくなっていくのが現実でしょう。 絵柄の商品価値で漫画の全てが決まってしまう。 「売ってしまったもん勝ち」でその時売れれば良しとする商魂が見え見えです。 一時期の児童漫画雑誌では可愛いキャラクターが氾濫していて人気があったのでしょうが、今でも続いている漫画があるのでしょうか? 「漫画はキャラクターが一番!」ーーーこれに文句はありませんが、あまりにキャラクター重視でもう片方の「ストーリー」をなおざりにしてこなかったのか?と思います。 絵柄は大事、でも読んでつまらなかったら普通の読者は二度と手に取ってはくれません。 でも採用する側は次から次へと現れる漫画家志望者に同じ事をさせて使い捨てていきます。 漫画家だって成長していくんです。 小説家だって年を取ってからデビューするのはそれだけ自分の中で社会経験やいろいろな思いをしてきたから 色んな立場の人の気持ちがわかったり、こういうお話を書いて読者に楽しんでもらいたい、考えてもらいたい、というテーマが確立されてくるからです。 派遣切りと一緒でその人が今まで培ってきた技術や経験をそこで捨てることと一緒です。 そして経験ゼロに等しい新人を採用しては捨てる、の繰り返し。 今風の絵柄は割と簡単に描けても、ネーム作りの力を付けるには経験と時間がかかります。 こんなことで漫画界は充実していくのでしょうか? そういった状況で先ほどの仕事先の編集者さんが出来上がった作品をとても評価してくれて、それに応えてくれるようにフォント等に気を遣って仕上げてくれたりすると、相乗効果で仕事の達成感が全然違います。 そこにはお互い「いい仕事をした!」という満足感があるからです。 「プロアマ問いません。」というような所でこういった達成感のある仕事はできるのでしょうか? それは読者に対して満足していただけるか、という姿勢も問われていると思うのです。 でも現実はネーム力や総合力よりも「可愛い今風の絵柄」に駆逐されていくんですよね・・・・ それがやるせなくって。 そんな中、ワタシを信頼して何度も依頼していただける所ができると本当に嬉しく思いますし、感謝の気持ちでいっぱいになります。 漫画業界の現実がそうとわかっていても漫画で食べていくことを選択した自分は覚悟を決めて進んで行くだけです。 「今に見ちょれよ〜〜〜〜。」と耐えて精進あるのみ! 負けてたまるかっ!
by mieru1
| 2009-03-04 16:20
| 仕事
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Comments(16)
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しのぶ
at 2009-03-04 21:54
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こんばんわ。
同感です。 たしかに、絵柄で読み取ることができる部分も 多々ある事は否定しませんが、 それを読み取れることができると勘違いして こじんまりしたセオリーやマーケティングに頼った判断に終始している 編集者は少なくないと思います。 もちろん、そうでない方もたくさんいるわけで、 僕もそういう方と出会って一緒に仕事をしていきたいと思っています。 で、今仕事を一緒にしているそういう方々と出会えた幸運に感謝しています。 ずいぶん前、絵本系の賞に入賞したとき 審査委員のコメントで 「絵にもう少し品があれば良かった」と書かれました。(笑) で、その原稿はなくされました。(しょぼーん) がんばりましょう!
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mieru1 at 2009-03-05 01:03
>しのぶさん
レスありがとうございます。 怒りに任せてエントリーを書くのは良くないですね。内容も感情的になって女のヒステリーみたいで自己嫌悪です。 わかってもらえないからと今の漫画業界を嘆いたりするのが人間の弱いところ。 でも嘆いていても始まらないし、そういう壁があるからこそどう対処したらいいのか考える機会にもなる。 自分が成長する時なんだ、とポジティブに考えていかなければいけませんよね。 うちの旦那もいい仕事をするのですが学習まんがにしては絵に灰汁がありすぎる、となかなか仕事にありつけません。(笑) でも中身はダントツなので読者からは評価されるのですが、採用する編集者の頭が「可愛いもの」を求めているので冷や飯食ってます。
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mieru1 at 2009-03-05 01:08
>続きです
絵本賞でもそんなことを言われるんですか。 絵本こそ子供の軟らかい頭には何でもありで、面白いものにはストレートに喜ぶはずなんですが。 (そういえば子供のチンチンが永遠と伸び続ける絵本を持っている・・・・・子供でなくワタシが喜んで買ったのですが・・・・・汗) でも絵本を買うのはお財布を握っているお母様方。 彼女たちがお金を出してもいいように可愛い絵を描きなさい、ってここでもなるんですよね・・・・。日本人はカワイイモノ症候群ですよ。 作品紛失、そういう態度もガッカリですね。 結局嘆いてばかりで矛盾してしまいましたが、停滞は禁! 前を向いて歩いて行きましょう!
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at 2009-03-05 17:08
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2009-03-05 17:11
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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おちゃずけ
at 2009-03-05 17:14
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mieru1 at 2009-03-06 02:15
>おちゃずけさん
温かいコメント、どうもありがとうございます! そんなふうに言ってもらえてとても嬉しいです。 ワタシのような漫画家はブログでもやって発信しないと目に留まる機会もないので、こういう交流があると、本当にネットがあって良かった!と思います。 「継続は力也」。 その結果が出てくるのはいつになるやら・・・ 「下手の横好き」なんじゃないかと迷う事もありましたが、どうやらこの仕事が好きでたまらないようです。 でないと続かない。辛くてもそれに勝る喜びが得られるから続けられるんですよね。そういう仕事を得られたことにもっと自信と幸運を感じないといけないかもしれません。 不況。確かに今はどん底ですね。休刊する雑誌もまだまだ出てくるでしょうし仕事を失う漫画家も・・・ そういう中、連載があるのは恵まれていると思います。 愚痴ばかり垂れ流すのは恥ずかしくなってきました。(汗)
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mieru1 at 2009-03-06 02:17
>続きです
おちゃずけさんも漫画の勉強なさっているのですね。 すぐに成果が出るものではないですが、スタートを切った人と切らない人では違うと思います。心がけ一つで新たな発見があると思います。 とにかく自分の頭で考え続けることが力を付けていきます。 あと、批評する力も大切だと思います。 自分にとって面白い漫画、つまらない漫画。 「その理由は?自分ならどうアレンジする?」ということを繰り返して行くと自分の漫画に対する判断力がつきますよ! 是非習慣にしてみてください。
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ホタル
at 2009-03-06 17:14
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はじめまして。
おちゃずけさんの紹介でこちらを拝読しています。 いつも興味深く、読んでます。 漫画家になりそこねた私なので、マンガで子供の学費を稼げるとは、 うらやましい限りです。 お体をこわさないように、お仕事をして下さい。
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mieru1 at 2009-03-06 23:54
>ホタルさん
はじめまして。コメントありがとうございます。 この仕事は描く場所によって原稿料が全く違うのが厄介でもあります。 予算内で作るものと違って、安いからこっちは手抜きでいいや、とは思えない質なもんで(そういう手抜きを覚えると衰退するだけと思うから)割に合わない部分はありますが、力をつけるためには全力に近いものを出そうと考えてます。 ワタシも子育て中、漫画の仕事から離れていましたが、どうしても漫画家になりたい気持ちが上回りました。 はっきり言って時代遅れになり、漫画家という職業につける状況ではなかったのですが、今なんとか仕事をいただける状況になっていると不思議な気もします。 お気遣い、どうもありがとうございます。 これからも宜しくお願いします。
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おちゃずけ
at 2009-03-07 16:39
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みえるさん、丁寧なコメント、アドバイスありがとうございます。
「批判力」確かに大切ですね。そしてただ批判しているだけではなく それでは自分はどうする?と考えるところが、批評家ではない、ものを創る私達にはなのですね。 みえるさんが子育てで、一時期かけない時期があったのは 初耳でした。ずーと描き続けてこられたのかと思ってました。 そんな中で、今こうしてがんばってるお姿、ものすごく励みになります。 (ほたるちゃんは私のアシスタント時代からの友人です!)
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mieru1 at 2009-03-08 13:20
>おちゃずけさん
さすが!すぐに理解できるのがこの道でお仕事をされている人ならではですね。 普通の人の感想って「あのキャラがかっこ良かった。」「あのコマの顔が可笑しかった。」っていうのが多いんですよ。漫画家もそれと同じじゃダメだろうと・・・・で、ストーリーに関してコメントできないと「絵が可愛くて良かったです。」で終わり。ってものがほとんどですからね。 こういう読者はキャラしか求めていないのかもしれませんが。 で、そういう普通の読者の最大の褒め言葉が「面白かった。」だと思います。そういうコメントを寄せられると自分としても凄く嬉しいです。 ホタルさんとは下積み時代からのおつきあいなんですか。 ワタシはアシについたことも使ったこともないんで、本当に独学なんですよ。コミケにも行ったことないし、世間の漫画観とはズレていると思います。(汗) 今思うとアシをやって現場で力をつけておけば、もうちょっと絵がなんとかなっていたんじゃないか、と思います・・・・
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ホタル
at 2009-03-08 23:40
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みえるさん、丁寧なコメント、ありがとうございます。
自分は、気の利いたコメントが書けないのですが‥‥(~_~;) いろんな方のアシスタントをやって、眼(だけ)は肥えました。 しかし、プロ作品に比べて、自分の画力(ストーリー面も)の無さに落ち込むばかりで、描く元気がなくなって、結局、挫折。 アシスタントの中には、先生より絵の上手い人もいました。 でも、アシの多くは、自分の作品をあんまり描かないです。 デビューしていったのは、当然ながら、自分の作品を、描いて描きまくっていた人です。おちゃずけさんがそうでした。 マンガを描きたい、人に作品を読んでほしい、その情熱が何より必要なんだと思います。私に欠けているのは、それですね。 デビューしたらしたで、漫画家でいつづけることのタイヘンさ、キビシさも、よくわかります。 みえるさんは、キツイお仕事の合間に、絵の練習もされていて、「プロなのに、すごいなぁ」と思いました。 まとまりのない文章で、すみません。結局、言いたかったのは、アシをやる必要は、みえるさんにはなかったんじゃないかな‥ということです。 余計な雑音が入らないし、その向上心、独学で十分です。
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mieru1 at 2009-03-09 21:19
>ホタルさん
アシスタントの経験からホタルさんは色んなことを学んだんですね。それはそれで貴重なことですよね。 でも独学ってホント、遠回りもいいところなんですよ。器用な人ならそれでも上達していくでしょうが・・・・ 漫画業界の仕組みもあまりわかっていずに、いつまでも「まんが道」みたいな古き良き時代のままなのかと思っていました。 漫画家っていうのは、「見て見て!」という自己顕示欲と読者を自分の漫画で楽しませたいっていう「サービス」なんだろうな、と思います。 それが上手くいかないから苦しむ訳なんですが、その二つの気持ちを実現させるまで維持できるかできないかが分かれ目なんでしょうかね。 ホタルさんのレスを読んだらおちゃずけさんの漫画、読んでみたくなりました。おちゃずけさん、教えてくれないかしら。(笑) 絵の練習時間は思うほどとれません。下手なので「明日は少しでも上手くなりたい。」というまるで薄紙を重ねていくような歩みです・・・・・ 励ましのコメント、どうもありがとうございます。
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mieru1 at 2009-03-10 11:41
>おちゃずけさん
ごめんなさい、レス見落としていました。 早速ブログ、HP拝見してきました! 子育てブログが連載開始、着実に目標に進んでいるではありませんか。 読んでいていろいろ触発される部分、懐かしい所がありました。 教えてくださり、どうもありがとうございます。
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